第13回 反射を味方につける (2003年8月)  こんにちは!1週間ランニング三昧のお盆休みを過ごしたランママです。  いくつか印象深かったシーンをあげると・・・。日曜日は静岡県安倍川沿い を遡って40キロ、台風で増水した河では濁流が踊るように跳ね上がっていまし た。真富士の里で食べたわさびソフトが不思議な美味しさだったなぁ。火曜日 は滋賀県草津で視覚障害ランナーの方と一緒に30キロ。長い階段の続く遊歩道 では「ハイッ、ハイッ!」と着地のタイミングに声をかけ、でもその緊張感を お互いに楽しみました。兵庫県六甲山に登る予定だった木曜日は大雨が降り、 地元・妙見山に変更。まるで川のように水が流れる道路をバシャバシャと走り ましたが、20度という気温の低さに助けられてペースが上がり40キロを3時 間20分でゴール。土曜日は再び妙見山で今度は山道を楽しみ、日曜日には京都 賀茂川で視覚障害の方と伴走20キロ。この日のパートナーはスピードランナー で、いつしか二人は伴走でも併走でもなく真剣バトルに・・・。体育原理学者 チクセントミハイがいうところのフロー状態(運動している人がすべてを忘れ て無我夢中になっている状態、これぞスポーツの醍醐味)を味わいました。い ずれも自然の中のランニングとその後の温泉、ビールで乾杯!各地でお世話に なった皆さま、楽しいランをありがとうございました。  さて、前回下りの走り方の中で「着地〜膝が曲がる(大腿四頭筋が伸展)〜 反射により大腿四頭筋が収縮(腿があがり膝が伸びる)…この繰り返しが走る という動作」と書きましたら、読者の方より「反射は大脳皮質を通さない脊髄 のレベルでの作用だと思います。この説明では足が接地して膝が屈曲すれば、 意思に関係なく走りだすように誤解してしまいそうです。」とのご意見を頂き ました。ありがとうございます。運動生理学の知識をきちんと持っておられる 方ですね。走るという随意運動に対して反射が影響するという事実を否定され ているのではなく、「反射だけで走る」と誤解されそうな私の表現のまずさを 指摘して頂いたのだと思います。  難しいことを書こうとするとまたボロが出るかもしれませんが・・・。走 る・跳ぶ・投げる、さまざまな動作の基となる筋の収縮は中枢神経からの指令 によって起こります。この指令には大脳から発せられる高度なものから脊髄発 の単純なものまであり、同じ筋収縮でも大脳からの指令によるものを随意運動、 それより下位の中枢からのものを反射と呼んでいます。随意運動は読んで字の 如く「自分の意思に随って」の運動でたとえば膝を曲げるも伸ばすも自由自在 なのですが、反射というのはある条件に対して必ず同じ動作が起こります。た とえば熱いヤカンに触って「あちっ!!」と思わず手を引っ込める・・・これ は脊髄レベルの屈曲反射ですが、この場合は危険から手を遠ざけるために必ず 肘の屈曲が起こります。肘が曲がることもあれば、逆にピンと伸びてヤカンを 突き飛ばすなんて、そのたびに違う反応の起こることがないのが反射の特徴で す。  筋収縮に関していえば、筋紡錘というセンサーが「筋の収縮力が不足して引 き伸ばされている」という情報を送れば脊髄は収縮を強める指令を出すし、腱 紡錘というセンサーが「筋が強く収縮して腱が引き伸ばされている」という情 報を送れば脊髄は逆に筋を弛緩させる指令を出します。そして随意運動が円滑 に行なわれるか否かはこれらの反射による調節も大いに影響しています。意思 とは関係なく起こる反射ですがうまく利用すればパフォーマンスを向上させ る・・・台から飛び降りて着地と同時に高くジャンプするプライオメトリクス はその一例ですね。逆に反射がそれを制限してしまうことも・・・反動をつけ た柔軟体操では強い伸張反射が起こってリラックスしたストレッチングができ ません。私は下り坂をうまく走っている時、まるで自分の足が勝手に前へ前へ と繰り出されて、あとは体を預けているだけという錯覚に陥ります。ご指摘を 頂いたように反射だけで走っているわけではありませんが、「反射を味方につ けて随意運動をしている」といえばよいのでしょうか。  スポーツのさまざまな動作に実はこの反射を利用した局面が多く存在し、な かでも伸張反射によって強いパワーが発揮されるためにはその直前に筋がリラ ックスしていることが重要だ、というのは「認知動作型トレーニングマシン・ カンド君」を開発した東大教授・小林寛道氏の著書から学んだことです。短距 離の末続慎吾選手の今季のフォームは「ももを高く上げて回すのではなく、重 心を低くし、坂道を走り下りるように足を前に出していく」、「ためない、ひ ねらない」、話題のナンバ走りを取り入れたといわれていますが、小林教授は 「ひねる動きは筋肉が主で、ナンバ型は体重の力を利用する。その方が効率的 でパワーも出る」と評していました(産経新聞8/18付より)。これも反射を随 意運動の味方につけたハイレベルなパフォーマンスなのでしょうか。  このあたりはいつかバイオメカニクス専門の先生にぜひ書いていただきまし ょう。私はこれ以上墓穴を掘る前に(もうすでに掘っているか??)、次回ま たのんびり山ランのお話をさせてくださいね。